育休中の雑誌編集者のつぶやき

結婚や妊娠・出産に関わる本の話、子育ての話、編集についての話などを書いていきます。

【展覧会の話】生まれてすぐの新生児の「目」を撮影した作品

東京都写真美術館で開催中の「至近距離の宇宙」展に行ってきました。

そこにあったのが、写真家の井上佐由紀さんが新生児の「目」ばかりを写した作品シリーズ(タイトルは『私は初めてみた光を覚えていない』)。病院から連絡を受けて出産の現場に駆けつけ、生まれたばかりの赤ん坊の目を5分間ほど撮影する、ということをここ6年ほどしているそうです。

展示会場には大きく引き伸ばされた新生児の目が並んでいました。それを見ながら、自分の赤ちゃんと初めて過ごした産院での夜を思い出しました。

見開かれた赤ちゃんの目を見て、「こわいくらいに綺麗だ」と思ったこと。

もう少し正確に言えば、「綺麗すぎてこわい」だったかも。

8カ月になった今こそ、表情豊かになり、アイコンタクトで様々な感情を伝えてくれるようになっていますが、最初は、ただただ、できたてのピカピカの目(印象的には、ビカビカ、という感じが近い)にドギマギしました。真っ黒な宝石のような瞳と、うっすら青みがかった曇りのない白目。宇宙人にじっと見つめられているような。見通されているような。

井上さんはそれを「畏れのような感覚」と表現しています。

産院で2人きりの真夜中、赤ちゃんが泣くでもなく、眠るでもなく、ぱっちりと目を見開いてこちらを見ていて、どうコミュニケーションしたらいいかわからず戸惑ったんですよ。そうしたら、次の瞬間に「にこーっ」って、とってもきれいに笑ったんです。まるでその時だけ意識が宿って、「これからいいことあるよ!」と伝えに来てくれたようで。それに救われたし、「この子とはきっと大丈夫だ」と思えたのでした。

私にとっては、そんな記憶の場所にそっと連れていってくれる作品でした。

【本の話】出産前後に読んだ、「出産」「育休」テーマの本

このテーマも山ほどありますが、また3つ、紹介します。1つめは出産した後に叔母からプレゼントされた本、2つめは男性の育休をテーマにした本、3つめは自分は子どもが欲しいのか?を考えていた頃に読んだ本です。

『生まれてバンザイ』(童話屋)

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詩人の俵万智さんの詩集で、子育てに関する(生まれてから卒園するまで)詩を集めたもの。出産後に赤ちゃんの顔を見に来た叔母が「とてもいい本なの」と持ってきてくれました。自分では俵万智さんの詩集を買うことはないだろうと思うので(産後は詩集を買う心の余裕もないしね・・・)、こういうプレゼントはありがたいです。

新生児期の歌で、いいなと思ったもの。

ふるえつつ
天抱くしぐさ
育児書は
モロー反射と
簡単に呼ぶ

薄き舌を
木の葉のようにふるわせて
アングリーボーイ
泣きやまぬ午後

モロー反射(音などに反応して新生児がばっ!と両手を上げること)を詩人はこうやって表現するんだなと。私は「これ、モロー反射って言うんだよね」と育児書そのままに受け入れてましたが、そうやって見れば世界はもっと素敵だし、自分の見方でもっと見ていいんですよね。

2つめの歌は、新生児の泣く様子がまさに「薄き舌を木の葉のようにふるわせて」だなと思わされて。言葉から、映像が浮かんでくるようで。

本の前書きで「子育ての歌は刺身」だと俵さんが書いていました。「鮮度のあるうちに言葉にしてしまわないと」と。

私たちが子どもの写真や映像を撮らずにいられないのも、「この瞬間はあっという間に過ぎさってしまう」「そして私は忘れてしまう」という焦りみたいなものがあるからだと思います。

ちなみに、この詩集、最初の6分の1くらいしか、まだ読んでいません。子どもの成長に合わせて味わっていきたい本だと思ったので、時々開いて、自分も経験したところまで読んで、その先は取っておいています。そんな本の読み方があってもいいかなと。

『男コピーライター、育休をとる。』(大和書房)

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電通でコピーライターをしている魚返洋平さんが、自身の育休取得を元に書いた育休体験記。
育児体験記ではなく、「育休体験記」であることがポイントで、会社員として、また職業人として、育休を通して得た発見や、自分自身にどんな変化があったかが綴られています。
私は妊娠中に”予習”みたいな感覚で、ウェブでの連載を一気読みしました。書籍になってからもう1回読みました。

結果、色々と共感のポイントがありましたし、勇気や励ましをもらえました。というのも、たまたま著者と育休に入るまでのキャリア年数がほぼ同じで(著者は入社15年目で、私は入社16年目で育休取得)、また子どもを産んだ年齢も奥さんと一緒(37歳で妊娠、38歳で出産)だったので、自分に色々と重ね合わせて読めたんです。

勇気をもらえたのは、15年というキャリアは、半年間の育休で揺らぐほどやわではなかった、という著者の感想(今読み返したら表現はちょっと違いましたが、私はそういうメッセージを本書から受け取りました)。

高齢出産は心配事は多くありますが、キャリアという観点から見れば(特にコピーライティングや編集などの専門職は)、自分のスキルもポジションも築いてから育休に入れるので、動じずに済むのかな、と思いました。

とはいえ、実際に復職したら、そんなこと言っていられないほど苦労するのでしょうが・・・。

他にも、父親が平日に児童館的な場所に行ってみた、の体験記や、”隠れ子ども嫌い”を自覚していた自分がどう変化していったか・・・のくだりなど、父親ならでは、コピーライターならではの視点から綴られた育児の日々を面白く、興味深く読ませてもらいました。

『私、子ども欲しいかもしれない。』(平凡社)

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タイトルが、面白いですよね。
本のタイトルって、何かを「強く言い切って目を引く」ことが多い中で、このもやもやした感じ。でも、そのもやもやが、当時の自分にはちょうど波長が合うように感じて、手に取りました。

著者は、コラムニストでテレビのコメンテーターなどでも活躍されている犬山紙子さん。彼女自身が「子ども、欲しくないかもしれない。でも産んでみたいかもしれない」と思い悩みながらたくさんの先輩女性たち(子どもがいる人も、いない人も、独身も、既婚も、子育て中のレズビアンカップルにも)に話を聞いて、思索を重ねた過程を記録したものです。

産む前、妊娠中、産んだ後、自分の状況も刻々変化する中で本音の疑問をぶつけていく。それぞれのインタビューも面白かったですが、彼女のたどり着いた結論が良くて。

「どんな選択をしても、それぞれに幸せになれる道がある」。だから、子どもを産んで今幸せだけど、子どもを産まない選択をしていても自分は幸せだった自信がある、と。そうさばさば言い切る彼女を(この本、タイトルはもやもやしてますが、結論はさばさばしています)とても気持ちがいいなと思いました。そして私自身の気持ちも前向きになれました。

2回目は短く、と言いつつまた長くなりました。
次は、先日行った展覧会の話を書こうと思います。

【本の話】妊娠して読んだ、「妊娠」がテーマの本とコンテンツ

こんにちは。いま育休中の雑誌編集者です。8カ月の息子がいます。

このブログでは、妊娠・育休期間中に読んだ本の話や、子育ての話、編集のスキルや考え方についての話なども書いていこうと思います。

「もし今飲みに行けたら、こんなことをとめどなくおしゃべりしたいなあ」と思うことを書くつもりなので、あまり役立つものにはならない予感がしますが・・・。

本やコンテンツの話が中心になると思います。ご興味のある方は、お付き合いいただければ幸いです。

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初回は「妊娠」がテーマの本やコンテンツです。3つ紹介します。まずは、妊娠・出産していなくても面白く読める本から。

『胎児のはなし』(ミシマ社)

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妊娠中、書店をふらふらしていたらこの表紙が目に留まり、面白そうな空気を発していて手に取りました。
胎児研究に並々ならぬ熱意で邁進してきた産婦人科の増崎英明先生(現在は長崎大学名誉教授)に、敏腕ライターの最相葉月さんがインタビューした作りの本です。

この本、何といっても一番いいのは、「妊婦向けの本」ではないことです。
というのも、妊婦向けの情報は世の中に山ほどありますが、どれもマニュアル的に近しいことが書いてあります。この時期は胎児はこのくらいの大きさでこんな状態です。母体にはこういう症状が出るので○○に気をつけて過ごしましょう、と。つまりお腹の中で何が起こっているかという情報は、妊婦さんにどう過ごしてほしいかを説明するのに必要な程度に留められていて、当たり前ですが、妊婦の好奇心を満たすためのものではありません。

でも、この本は、「胎児がどうなっているのか知りたい!お腹の中を俺は覗いてみたい!」という先生の純粋な探究心と、それに呼応する最相さんの好奇心が出発点になっています。そのグイグイ行く感じが気持ちよく、引き込まれます。前書きにも「楽しくてためになる、役に立たない本にしましょう!」と話して作ったと書いてあります。まさに、そんな感じ。

古来より、人間が胎児をどのように観察してきたのかに始まって、出生前診断の是非、胎児治療の最前線に至るまで縦横に展開され、深い満足が得られた一冊でした。

余談ですが、この本を買った直後に下北沢で本のトークショーがありました。夫と行ったのですが、増崎先生が長崎大学病院でちょうど現役の時に、夫はそこで生まれたことが判明。増崎先生に取り上げてもらったわけではなかったのですが、不思議なご縁を感じることになりました。

続けて、2つ目は異色の妊娠マンガを。万人受けするものではないかもしれませんが、私は好きです。

「子宮の中の人たち」

著者のEMIさんが妊娠中にリアルタイムでSNS上で発表していたもので、書籍化もされています。お腹の中の胎児の成長を斬新な世界観で描いているのですが、例えば・・・

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引用元:-EMI- on Twitter: "【漫画】妊娠前の子宮の中の人たち https://t.co/reYjC1qfIm"

これが「着床」の回です。生理や妊娠をこんな風に表現するのが、目からウロコ。

この小さい人たちが胎児をお腹の中で成長させ、体外に無事送り届けるまでをドキュメント形式(?)で描きます。妊娠中、ネット上でこのマンガを少しずつ読み進めるのがひそかな楽しみでした(笑)。

ゆるく見えますが、おそらくすごく勉強されて書いたはずで、妊娠中にこういうアウトプットができたこと、素直にリスペクトです。

「生理ちゃん」も話題になってますが、妊娠や生理のような外からわかりづらい人間の生理現象を、こうやって人に伝わる形にしてしまうって、すごいですね。

ちなみに再度余談ですが、この妊娠マンガを書き終えたあと、著者は別のマンガも書いていて、こちらもおすすめ。自分のうつ抜け体験を書いた「パラダイムシフト」は、前作(妊娠マンガ)より絵も構成も緻密で完成度が高まっています。自分の体験を人に伝えたい、きちんと作品として世に送り出したいという気持ちが伝わってきます。

長くなりましたが、3つめ。こちらは、妊婦さんやその家族におすすめのコンテンツです。

『はじめての妊娠・出産安心マタニティブック―お腹の赤ちゃんの成長が毎日わかる! 』(永岡書店)

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自分の妊娠がわかった翌日、やや混乱した頭で書店の妊娠・出産コーナーに行きました。そしてこの本を買いました。

「お腹の赤ちゃんの成長が毎日わかる」というキャッチの通り、妊娠○日目の今日、いま胎児はどんな状態で、母体にどんな変化が起きるかを毎日解説してくれます。

例えば、妊娠29日目の説明は、こんなふうです。

”赤ちゃんはいま5〜7mm。小さめのコーヒー豆くらいのサイズです。(中略)足になる突起は今日には現れるでしょう”

妊娠初期にこの本があってよかったと思います。はじめは身体に見た目の変化はありませんし、胎児の存在を自分で感じることもできません(つわりで存在を感じるくらい)。いま胎児がどんな姿でいるのか、この本を読みながら、見えないなりに思いを馳せながら過ごすことができました。

著者はアメリカの方で(この本はアメリカで出版された『The Pregnancy Journal』の日本版)、前書きによると、著者自身が妊娠中にまさに知りたかった内容を、これからの妊婦のために本にしたそうです。知識があることでより安心して妊娠期間を過ごせるから、と。

人に例えるなら、妊娠期間ずっと横にいて、優しく励ましたりアドバイスをくれるベテランの助産師さんのような。暖かな温もりを感じます。ここがこの本の素晴らしいところです。妊婦用のアプリでも実は似た企画(お腹の中の赤ちゃんの成長が毎日わかる)はあります。でも、そういうアプリからは「ユーザーに毎日アクセスしてもらおう」「広告価値高めよう」みたいな思惑を先に感じてしまうんですよね・・・(すみません、見方がうがっていて)。

同じようなコンテンツならば、その動機に共感できるものに、お金を払って利用したいという気持ちで、私はこの本をそばに置いていました。

初回から書き過ぎてしまいました!すみません。次回からはもう少しライトな分量を目指します。